元児童相談所職員(横浜市)
人には、不運が重なりやすい人と、そうでない人がいる。皆、生まれた家や、生まれ持った能力の違いなど、抗いがたい運命の中で授かり分に応じて必死に生きている。
児童相談所を訪れるのは、そんな必死の毎日の中で溺れそうになっている人達だ。幸せを望まない人はいないが、一度歯車が狂うと、自分の力だけでは負の連鎖から抜け出せないことが多い。児童相談所の職員は、そんな人達を熱い情熱を持って支え、新たな人生の扉を開く手伝いをしている。命がけの仕事だが、決して目立つ事はなく、世間には実際の仕事の中身はほとんど知られていない。この本には、児童相談所の仕事がどのようなものかが誇張する事なく、実に詳しく書かれている。専門書と言っても良いぐらいだ。にもかかわらず、小説としての爽やかな魅力があり、主人公と一緒にハラハラドキドキしているうちにさらっと読み終えてしまう。そして、平凡な毎日を送っている事がいかに幸運であるかを実感し、今いる場所や周囲の人を大切にしたいと思う気持ちになる。元児童相談所職員として、沢山の人にお勧めしたい本である。